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ヴルコラカスの息子6/11(乙女系妄想話)

テーマ:ライトノベル - ジャンル:小説・文学

彼女は気になって席を立った。
「あ、俺はここの住人じゃないです。えっと、カ、ノジョの」
誰だろうと覗いてみると、中年の感じの良くない男と、
制服を着た若い警官がそこにいる。
「あ、寝てていいよ?警察の人だって」
彼女の顔色が変わる。
「あなたがここの住人の方?」
中年のほうに聞かれ、彼女は無言で頷いた。
「本当に顔色がお悪いですね。
お加減の良くないところに申し訳ないんですがね、この辺一帯で今
お聞きしてるんですわ。
昨夜この近所で、何か見かけませんでしたかね。
見慣れない車とか、近所で見かけない奴とか、何でもいいんですが。」
悪魔は振り返り、刑事らしき男と彼女を交互に見ながら答える。
「あ、それってもしかしてさっきニュースでやってたやつ?
コンビニの駐車場に死体×2ってやつですよね?
あれすっごい近所じゃん。怖ぁって話、さっきしてたんですよ。」
「コンビニの店員がそのぐらいの時間帯に見たらしいんですわ。
いつもよりかなり遅い時間にあなたがひとりで通ったのを。」
「え、何、それってニアミスってことだったんですか!?」
「…お二人は一緒に暮らしてるの?」
何を言っても彼が先に答えてしまうからか、いきなり質問が変わる。
「や、そんな、まだそこまでは、ってか泊まったのも
昨夜が初めてでって、あ、あ、し、してないですよ!?
そんな、具合悪い人にそんな、こと…な?な?」
その焦ったような視線を受けて、彼女は頷く。
あけすけな彼の態度に納得したようで、質問が元に戻った。
「何か気づきませんでした?」
昨日は残業で遅くなったが、特には何も気づかなかったと
彼女は答えた。
「そうそう。で、駅出てから何か急にふらふらするってメールもらって、
俺が迎えに行こうとして、彼女がコンビニ通り過ぎたあたりで会って、
そのまま家に入れてもらってな感じ?です。」
何か思い出したら連絡をと、2人は名刺を置いて立ち去った。
ドアを閉めると、彼は上目遣いに彼女を見る。
「あの、ごめん、な?勝手に彼女とか言って…お、怒る?」
彼女は微笑んで首を振る。
そんな場合じゃないのは分かっているつもりなのに、気持ちがうわずっていた。
すると、彼がいきなり慌て始める。
「と、か言ってる場合じゃないな。荷造りして。
ここ、出るから。」
急にどうしたのだろうと思うと、彼が声を潜めた。
「ちょっと、マズイと思う。しばらく俺の家へでも行ってた
ほうがいい。」
今のタイミングで慌てて荷造りして家を空けたのではかえって怪しく
見えるのではないだろうか。
「普通はそうだと思うけど、あいつら偽者だから。
店員だまして防犯カメラの画像出させてる。」
なぜそんなことが分かるのかと一瞬思ったが、人の心を読む悪魔に
それは愚問だろう。
捜されている。しかも住所も名前も、もっとほかの事も
多分もう知られている。全身が総毛だった。
どうしよう。
「とりあえず会社には入院するとか適当に連絡して、
しばらく帰らないほうがいい。
契約とか関係なしで、もう絶対あんな目に遭わせたくないから。
だからうちに来てほしい。いや、じゃなければ。…だめ?」
その言葉の心強さに、倒れこむように気持ちが彼へと吸い寄せられていく。
彼女がうなずいて礼を言うと、彼は嬉しそうに笑って
前触れもなく抱きついてきた。
安心させるような抱擁に、その背中を抱きしめ返す。
「信じてもらえるって、すごい嬉しいんだな。」
目覚めたときとは少し違う、遠慮がちなキスが頬に触れる。
彼女がそのまま摺り寄せた頬を横へ滑らせると、
彼が慌てて身を離した。
「それだめ!止まんなくなるから!そんな場合じゃないし!」
言いながら、再び深く抱きしめる。
「ああああああでもやっぱ、キスだけ、したい。いい?」
様子を窺う口調に彼女が微笑むと、彼の頬が赤くなった。
「うー寝ぼけてくれてれば平気だったのになー。
でも、じゃ、し、つ礼します」
重なる唇は、一度深く合わさると次第に慎みを忘れていく。
差し込まれた舌で口内を撫でられ、彼女はその舌を撫で返す。
すると粘膜に絡む快さにまぎれ、ちくりとした痛みが走った。
口内に感じた血の味に薄く目を開くと、彼は夢中で舌先を吸ってくる。
彼女は驚きつつも、それを止められなかった。
微かな痛みがまるで呼び水のように、全身に快楽を導いてくるから。
血の味が薄くなると、再び小さな痛みが走る。
その度に、痛みの後にくるぞくりとした甘い痺れが深まってくる気がして、
彼女の体から段々と力が抜けていく。
膝がかくんと落ちると、彼ははっとして唇を離し、ぼんやりと見つめる
彼女を抱きしめたまま苦い表情を見せる。
「ごめん。」
力の抜けた彼女の身体を支えて椅子に座らせる。
「ごめん。そんなつもりなかったのに、俺また…。
多分、150ccぐらいだと思うけど…。」
そんな風には感じなかったので、彼女は意外な計量に驚く。
「ほら、頭って結構多めに血が出るようにできてるし、
俺が飲んだせいであんまり味がしないから…。
ちょっと、何か入れてくるから飲んで休んでて。
急いで車とって来る。鍵も貸して、かけてくから。もし誰かきても
居留守して。すぐ戻る。」




つづきます。



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ヴルコラカスの息子5/11(乙女系妄想話)

テーマ:ライトノベル - ジャンル:小説・文学

小さく息をつき、彼は再び椅子にかけた。
「いいよ。次の質問にいこう。
ある日、病院に来た外人が俺を見てお仲間だとか言って、
引き取りたいと言い出した。
その外人、ギリシャ人は俺のひいじいさんって人をどこからか探してきて。
でもじいさんは結構ボケてたし、単に騙されてただけかもしれないけど。
施設からの俺の引き取り手続きの後すぐに亡くなって、
ろくに話したこともないままだったし。
で、そのじいさんの家で、自称悪魔って外人に色々教えられたって感じ。」
色々。
「そう。俺にできること、できないこととか。
どうやって人の中に混じるかとか、人の血を手に入れる方法とか…他にも」
口ごもる彼の表情に、彼女もすぐ気づいた。
彼女、つまり人間には言えないことも学んだのだろう。
彼の曇った伏し目がそれを肯定する。
「でも結局そのギリシャ人とは俺が高校生の頃に大喧嘩して、
あいつが出てってそれっきり。
ひいじいさんの遺産は俺の名義だったから、俺はあいつに教えられた方法で、
詐欺被害者かもしれないじいさんの金で暮らしてる。」
その自嘲的な抑揚が少し哀れに思えて、彼女は次の質問に移った。
「ん、契約ってのは、よくあるパターン通りかな。
どっちか死ぬまで破れない。
でも俺はいつ死ぬかも、何で死ねるかも、どれだけ生きるかも分からないから、
実質は契約者が死ぬまでってこと。」
そういえばあのカフェで、年齢的にはロリコンだと彼は言った。
「うん。まあ、そうかも。俺が施設を出てから、40年以上経ってる。」
昨夜のことがなければ、彼女はそれを信じなかっただろう。
時々、年齢に似合わない物言いを彼がする理由がわかった。
「言葉遣いは、ふふ、ほんと俺、虫っぽいっていうか、いつの間にか
擬態してる気がする。
そうやって人に混じって誰かと契約すれば、俺は血をくれる人を確保できる。
だから俺もできることは何でもして、相手を逃がすまいとするわけさ。
言っても若さが欲しいとか、才能とか運をくれとかは俺にはできないから。
だからいつも、そんなものを望まない人と契約してきたんだ。
あの、何かの事件の被害者遺族、とか…。」
復讐が目的なら悪い相手を壊せばいいだけだから、と小声で言ったその顔に
浮かぶ自己嫌悪が、彼女には痛々しく見えた。
「でも今回は違うから!
あの、こんな時にあれなんだけど、しかもさっきもボンヤリしてるからって
あんなフライングしといて何だけど、俺、ほんとに、好き、で…」
目を丸くする彼女に、彼は赤くなった頬で目をそらした。
「いつも仕事、教えてもらいながら思ってた。すごく、いいなって。
仕事の文句とか、人の悪口とか言ってるの聞いたことなかった。
他人のミスを責めたりもしないし。
何でもまず自分でして、バイトだからって雑用押し付けたりとか、
威張ったりもしない。
嫌いな相手にもテキトーな嘘つかない人って、あんまりいない。
しかもカワイイし。
しんどくないわけじゃないって、見てたらすぐわかった。
でもそれだけ気を張ってるのに、イライラして八つ当たりとかもしない。
けど俺だけしかいない時は、言ってくれる。
疲れたって。手伝ってって。それがすごい嬉しくて、ほんとに、
好きになった。
滅多に人に弱みなんて見せない人が、俺のことちゃんと見て、
分かって、頼ってくれる。
そんなの、応えらんなきゃ男じゃないなって。
もっと頼って欲しいし、頼ってもらえる男でいたい。
そんなに頑張らなくてもいいように、してあげたいって。
そう思って、…思って。
…ごめん。ちょっと、忘れてた。
自分が人間じゃないってこと。
結局、俺は悪魔だから、好きな人のこと、こんな風に怖がらせることしか
できてなくて、ほんとに、ごめん。
魔物に好かれたって人間にはいいことなんかないって分かってるのに、
ごめん。好きになって、契約までさせて、なのに安心させても
あげられなくて」
今にも泣き出しそうなその眼差しに、彼女は何も言えなくなる。
昨夜のことが、夢ならよかったのに。
昨夜のことは夢で、これまでの全部はただの手品だと笑ってくれたら。
疲れた顔を自然に見せてしまうのは、無意識に甘えてたのかもと
答えられたかもしれない。
今朝のことも全然いやじゃなかった。
触れることも、触れられることも、頭より先に心が許している。
ぞっとすることもいくつかあるけれど、何より彼がいなければ、
そして彼が普通の人間だったら、もう死んでいたかもしれない。
その時、玄関のチャイムが鳴った。
「あ、俺出る」
表情を隠すように、彼は席を立った。
すぐに戻ってくるか声をかけてくるだろうと思ったが、
彼はドアを開け誰かと話しているようだった。
誰だろう。知らない男の声だ。




つづきます。


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ヴルコラカスの息子4/11(乙女系妄想話)

テーマ:ライトノベル - ジャンル:小説・文学

「おはようございます。」
古式ゆかしい寝起きドッキリのレポーターよろしく、いきなり耳元に
息を吹き込んで囁かれ、彼女は急激に目を覚ました。
が、上に彼を乗せている身体はずっしりと重く身動きもできない。
無意識にもがく手首をつかまれ、枕の左右にそっと押し付けられた。
「キスしてい?」
返事を待たない唇は、柔らかな羽のように触れて離れる。
「ん。ん、ん。」
数回それを繰り返し、彼女を抱きしめたまま彼は身を起こした。
抱き込まれた上体がつられて起き上がる。
「ごめん。ゆうべ勝手にベッド、もぐりこんだ。
何か怖い夢みてるっぽかったから、つい。や、でもあの、
悪さしてないよ? ちゃんと我慢したよ?
俺、偉かったよ?」
ずっと隣で抱きしめてくれたおかげなのか、悪い夢は覚えていない。
昨夜は立っていることもできないほど怖かったのに、
今は昨夜の事態について落ち着いて考えられる。
彼女は会社に電話をかけ、2~3日、仕事を休むことにした。
何食わぬ顔ができるほど、状況は安心はできないから。
幸いここ数日彼女の様子が少しおかしかったこともあり、
病欠はあっさり了解された。
「何か食べようか」
朝食は冷凍してあったシチューをレンジで温め、パンと紅茶で
簡単に用意した。
それを彼がテーブルに運ぶ。
テレビをつけると、朝のニュースはコンビニの駐車場に遺棄された
2人の男の他殺体を報道している。
そのうちの一人は首の骨が折られていたとアナウンサーは読んだが、
もう一人の遺体の状況については触れられていなかった。
「きっとあの後、仲間割れでもしたんじゃないかな。」
昨日と同じ綺麗な顔で微笑む悪魔。
まるで何もなかったように。
昨夜の光景が一瞬フラッシュバックし、彼女は背筋が寒くなった。
もし契約を破ったら、自分もあんなふうに殺されるのだろうか。
心を読んでいるのかいないのか、彼は答えなかったが
この際だから、こわごわながら彼女は色々な質問をして、
状況を整理しようと考える。

食べ終わると、彼は真面目な顔で何でも答えると約束してくれた。
と言っても、何からどう聞いたものか考えあぐねる彼女に、
悪魔はティーポットから彼女の空いたカップに紅茶を注いで差し出すと、
問わず語りを始める。
「俺の実家、2県向こうなのは知ってたかな。
それは俺のひいじいさんって人が遺してくれたものなんだけど、
俺自身、物心ついたときは施設にいたんだ。親は知らない。
っても、ずっと施設と病院を行ったり来たりで」
何か難しい病気だったのだろうか。
「ん、病気ってより、体質かな。
え、と、必須アミノ酸ってあるじゃない。
体内で十分量が作れないから外から摂取しないとってやつ。
普通はタンパク質を分解して作るらしんだけど、俺の場合なんかそれを
作るのに必要なトランス、アミナーゼ?がちゃんとしてないみたいで、
リジンとトリオニンってのが何食っても作れなくて。
最初は直接合成したアミノ酸を注入してたんだけど、
そしたら異常ヘモグロビンが増えて聞いたことない名前の貧血症になって、
ひどくなったら骨髄移植しなきゃってんで直接注入はやめて、
俺のトランスなんとかがアミノ酸を作れるタンパク質を探したら、
唯一使えたのがそのヘモグロビンで。
ほら、ヘモグロビンって赤血球内のタンパク質じゃない。」
ほら、と言われてもよく知らない。
「でも普通大量に血飲んだら吐くだけだからって
それからしばらく成分献血みたいにしてもらってたんだけど、何かずっと
実験動物扱いっていうか、色々、すごい嫌で…。
試しに人に血もらってみたら経口摂取でも何とかなるっぽかったから。
べつに吐かなかったし。
ただ脊椎動物なら何でもヘモグロビンあるらしいけど、
動物だと可哀相だし、でもヒトでも合う血とあんまり合わないのが
あるみたいで、妙に気分悪くなったり酔ったみたいになったりして、
なかなか合わない感じで…」
彼女ははっとして思い出した。
以前、仕事中にうっかり紙で切ってしまった指を、その血を彼が
ごく当たり前のように舐めたことを。
「あ、あれは、ついもったいなくて、ごめん」
とはいえそれで<使える血>だと判断したことは間違いないだろう。
でもそれだけならば、ただの体質といえなくもない。
世の中には海水や人工照明にアレルギーを起こす人や、石や土を食べて
ミネラルを摂る民族もいるとテレビで見たことがあるから、
そんな体質があってもおかしくはないのかもしれない。
昨夜、あの駐車場で見たものがなければ。
「でも、気味が悪いだろ。人の血を隔週で100cc飲まなきゃ
いけないなんて。」
その具体的な数字に、思わず彼女は目を瞬かせる。
計って血を吸うヴァンパイアなんて聞いたこともない。
でもとりあえずその量なら相手を殺すこともないわけで、
大した問題でもない気がする。
彼女が言うより先に彼が立ち上がり、いきなり強く抱きついてくる。
「ありがとう。そんな風に思ってくれる人、あんまりいない。
すごく、嬉しい。ほんとに嬉しい。」
一体いつ彼は、自分を悪魔だと知ったのだろう。




つづきます。



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プロフィール

シカピ

Author:シカピ
数年前、とある美声にひと耳惚れし、
そのまま声フェチに、そして
ヤンデレに行き着きました。
同じ道を通った人、いますか?

真冬以外は年中花粉症です。

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